「春ですよー!!」

眩き白銀に覆われた幻想の地を、春が舞う。
花が咲き、雪が溶け、生き物達が目を覚ます。
恵みを報せる春一番。呼びし伝えるは春の精。
彼女の通る先々に、春という春が伝えられていく。

冬はそれを期に薄れ、春はそれを期に訪れる。
春はそれを期に幻想の地を満たし、夏の訪れまで全てを彩り続ける。
彼女こそその伝達役。彼女は春の訪れ、冬の終わりに現れ舞う
この時の、この瞬間のために…

「…」
あらかた春を伝えれば、彼女はいずこへ行くのか。
それは彼女にも分からない…
「…」
一つ言える事は…今彼女が前にしている冬の精。
彼女に春を伝えれば、その身は………。
「…貴方にも……春を…」
最早動けないであろう彼女にそう、告げる。
手をかざせば、満ちる春。霧の如く雲散する冬の精。
まるで溶け逝く雪のように。まるで散り逝く花のように、その身を薄れ逝く…二人。
「春…ですから…」
今年の春は色々あった。あまりにも春が長かったから探し求めて天に上がり。
ようやく見つけた春を真っ先に伝えた相手に…墜され。
よろよろと飛び、それでも春が来た喜びを乗せて、全てに伝えた。
ああ、本当に色んな目にあった。思い返せば良き思い出。
「…………このまま春を伝えなければ、こんな思い出ももっともっと増やせるのに…」
「……」
「そうは…思った事は無い?…リリーホワイト」
「…」
冬は語る。ふと思いついたかのように、ゆっくりと。
「私は、そう思ったわ。世話の焼ける友達のお陰でね」
「…」
「本当に色々あったわ…できることなら………このまま…」
「…」
「…貴方もそうは…思ったこと無い?春を誰かと、共感したくない?
誰かと笑って…楽しんで…春を過ごしたくない?」







春の精は、微笑む。

「…春ですよ…春を…貴方に…」

目に、涙を溜めて微笑む。それは本当に綺麗で、
何もかもを許せてしまうような美しさで…何もかもを忘れさせてしまうような儚さで…

「…ごめんなさい、余計なお世話ね」
「…春……」
「ん…春ね…」
「はい。春なんです」
「解ったわよ………頼むわ」


春の精が、冬を抱く。ゆるやかに、風が砂を吹き運ぶように、ゆるりゆるりと。
それは暖かく美しい、季節の境界。
「……さ…なら……ルノ…」
「……春…です……よ……」
薄れ逝く冬と、春の伝達。過ぎ去りて訪れる、春のぬくもり。

空が青く澄み、雲が散る。春の訪れ、冬の終わり。
冬の精は長く続いた冬を惜しむように。
春の精は遅く訪れた春を待ちわびるかのように。



そして春は…訪れる。