チルノのおねえちゃん



 「それじゃぁいってくるねチルノちゃん」
 「うん、頑張ってねお姉ちゃん」

 ムカつくくらい晴れた空の中、姉ちゃんは相変わらずののーてんきそうな声と笑顔で空に浮いた。
 最萌とやらに参加するとはいえ、住処ともいえる湖を離れるのは抵抗があるらしく、いつもはにこにこしてるお姉ちゃんにもちょっとだけ不安の色が出ている。

 「まぁ頑張ってね」
 「うん、チルノちゃんの分も頑張るよー」
 「う…ふん、どうせ私は負けドックですよーだ…」
 「あ…ごめんチルノちゃんそんなつもりじゃないの…」
 「まぁとにかく、早くいった方がいいんじゃないの?」
 「え…あ、そうだね。本当にごめんねチルノちゃん…」
 「いや…だから冗談だってば…」

 ああもうじれったい…軽い「あめりかんじょーく」ってのもわかんないのねお姉ちゃん。
 っていうか一人で行かせて大丈夫かな…お留守番頼まれてるけど、ついてったほうがいいような気がしてきた。
 ひょっこりどこぞの詐欺兎に騙されて「かくうせいきゅう」とか言ったやつでも抱えて帰って来そうだ。

 …これが私のお姉ちゃん。私を負かした、あの我侭吸血鬼のいる館周辺に広がるの大妖精だ。
 私がここに来た時から湖に住んでいて、以来結構一緒にいる。名前は…私もまだ知らない。余所の連中はルーネイトエルフとか呼んでるけど…
 そんな大層な名前、あのほわわわわわわんなお姉ちゃんには似合わないような気がする。
 性格は…見ての通りよく言ってのんびりマイペース。ぶっちゃげトロい天然ボケさん。力もはっきりいってたいしたこと無い。
まぁ私が強すぎるだけなんだけどね。へへへ。

 「じゃぁほんとに行くね?あとはお願いね?」
 「ほいほーい。キバってらっさー」
 「浄化とか見回りとか、大丈夫だよね?忘れものはないよね?」
 「手順はOK、任せといてよ。忘れ物はこっちが聞きたいよ」
 「危なくなったら無理しなくていいからね?何か困ったら紅魔館の門番さんに頼めば力になってくれるから」
 「はいはいはい心得てますよー…」
 「門番さんに頼む時はちゃんと名前で呼んであげてね?あと他には・・・」
 「 は や く い け !!」
 「はぅぅ…」

 またこれだ…さっきっからこんなやり取りばっか。よっぽど信頼ないのかな私。

 「でも…」
 「?」
 「安心して?すぐ帰って来るよ」
 「…え」
 「私のお相手、天狐さんでしょ?きっと負けちゃうよ」
 「…」

 …あ…………

 「ほら、私って人目につかないからさ…ね?」

 また始まった…お姉ちゃんの悪い癖…

 「それに天狐さんは噂だとかっこよくて優秀で…人気もあるんだって」

 そんなことはいいよ…あの変態狐と比べたらお姉ちゃんに勝ち目は無いのはあのリグルだって解る。

 「それに比べてさ、私は…目立たないし、取り得ないし」

 お姉ちゃんは、言うなれば自然現象。ここの湖の存在が具現化したようなもの…
風とか水が人型になったような存在…ってレティが言ってた。すなわち、日常。
 私みたいに身近に居たり会ったりしない限りは…吹き抜ける風みたいに、空から降り注ぐ光みたいに…気にもとまらない存在。

 「……ね?だからちょっと待っててよ。お呼ばれされたから行って来るだけだよ」

 だから、殆ど誰も気がつかない。お姉ちゃんも殆ど諦めて、ずっと一人で過ごしてきたって聞いたことがある
 でも、…だからって…何で…何でさぁ…そんなにボロクソに自分を言っておきながらさ…

 「…いってきまーす」
 
そんな笑顔でいられるのよ……




―――――数刻後―――――

 ついた。ここが会場。…おっきいなぁ…こんなすごいところ…私には不釣合いだよぉ…
 対戦相手である八雲藍さんが待つ会場へ…。うう…ドキドキしてきたよぉ…
 出番はすぐみたい………うん、チルノちゃんに言われちゃったし、ちゃんと頑張らなきゃっ…


 でも…


 人がたくさん居る会場の中、おっきくスペースが取られた場所。出番と言われて連れてこられたここは…思った以上にすごかった。
 八雲藍さんが入場すると…大きな、いっぱいの歓声が上がった。
 待ってました、愛してます、尻尾さわらせて、生テンコーハァハァ…私にはよく分からない言葉だけど…すごい人気なのは良くわかった…

 勿論…私が入場しても…それと同様、いや…それ以下の歓声も望めなかった。

 「お主が私の相手か。次に主人が控えてらっしゃるのでな…悪いが加減なしで勝たせてもらう。」

 手を袖に入れて組んだまま構えもせずに藍さんは私に言う。…藍さんはかっこいい妖怪さんだった。雰囲気も容姿も、勿論力も。…それに比べて…
 ううん、解ってはいたよ。…だけどね…

「…どうした…?   何故泣いている…?」

 よく、わからなくなった。いつものように笑おうとしても…涙が止まらなくなった。あ、どうしよう…藍さん困ってるみたい…ダメだよないていちゃ…解ってたことでしょ?…ねぇ私…

 でも
 どうして…
 私、何でここにいるんだろう…
 「助けて…助けてよぉ…チルノちゃぁん…」



 「呼んだーーーーー!?お姉ちゃーーーーん!!」



 ふと、聞きなれた、大好きな声…聞き逃すはずも無い。この声は…
 「皆で応援に来たよーーーーー!!」
 ああ、やっぱりチルノちゃんだ…!!観客席に見慣れた可愛らしい姿が…
 【お姉ちゃん】なんて描いてある旗まで持ってきて…でもお留守番を頼んだはずなのに…
 「あれがチルノんのお姉さんだよね…わ、すごいすごい!!がんばれー!!」
 「何がすごいんだか…。この私が応援歌を引っさげてきたんだから、しっかり踏ん張ってよねー!!」
 「相手が悪いわねぇ…まぁそれが肝心というわけじゃないしね。しっかり頑張ってねー」
 「ふれー、ふれー、チルノ姉(ねえ)ー」
 
 …リグルちゃん、ミスティアちゃん、レティさん、ルーミアちゃん…
 「あー、留守番はねー湖の仲間に任せちゃったー!!お姉ちゃんはいつも一人で色々してるけど…皆でやれば1日くらいは持つからー!!」

 …あれ…なんだろう…

 「何でも抱え込みすぎよ、貴女。ま、そこが貴女のいいとこなのかもしれないけどね…」

 さっきまで止まらなかった涙…おさまった。

 「だからお姉ちゃん、思う存分頑張ってー!!」

 皆そろって必死なくらい(レティさんはいつも通りだけど)声を上げて旗を振ってくれてる。その姿は可笑しくって可愛くって…嬉しくて…

 「……ふふっ…」
 「いい顔になったな…お互い嬉しい身内がいるな」
 「…お見苦しい所を、失礼しました…」
 そう言って私は頭を下げる。さっきより気分は軽くなった気がする。いつものように笑えることも実感できる。 
 「じゃぁ、始めましょう。多分負けちゃうと思うけど…」

 でも…私、頑張ってみるよ、チルノちゃん。

 「一生懸命頑張りますから…宜しくお願いします」
 「…ああ、来るがいい」


 
 ありがとう、チルノちゃん…


後書き。
大妖精に。バイトだからたいした支援できんが…頑張れ。少ないかもしれないが、君を見ている人は居るよ。

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