開幕っぽい駄文
最萌。
数多の猛者が挑み合い、己が持ちうる全てをありとあらゆる手段で具現し、潰し合う。
そしてそれに魅入られし者の数において勝敗を分かち、勝者は次なる猛者に立ち向かい、敗者は散る。
単純にして明快、かつ難解で、かつ複雑。
これはそんな戦いの僅か一部の旋律…と長い前置きを置くには、今の状況は余りに劇的すぎます。
『パチュリー・ノーレッジ 控え室』
ドアに貼られた札の文字を見るたび、私はこの現状を嫌でも覚えさせられます。
この戦い、私は既に負け。パチュリー様は、見事シード権獲得。
そして今度のパチュリー様の対戦相手………。
『霧雨魔理沙 控え室』
パチュリー様の控え室のドアに向かい合ったまま、隣のドアに貼ってある札を見て、軽く溜め息。頭の羽も、同時に傾く。
ついお嬢様が運命を弄ばれたのかと考えてしまう今。
何時の日に出会った二人。変わっていく生活を共有しつつ、一方はそれでも普段どおりに、一方は戸惑いながらも必死に。
そんなお互いが、そんなお互いを超越すべく争う。そんなお互いを倒すべく戦う。
これらが偶然の一言で納得もいく筈も無く、私は言いようの無い昂ぶりを備品として貰って来た紅茶の葉の缶を握る手に込め、パチュリー様の控え室のドアを開けた。
こんにちは、小悪魔です。名前は……そう言えばまだありませんね…。まぁ皆さんには4面中ボスと言ったら判りやすいで、それで。
さて、いきなりですがここで質問です。夫の不倫がバレて喧嘩が縺れ、その仲介役をしているのが貴方だとします。そんな雰囲気の中お茶を煎れに席を外した貴方は、再び修羅場に入る時、どうやって入りますか?………すみません、話が飛躍し過ぎました…いえ、別に誰か不倫した訳ではないのであしからず…。
でも、私の入った部屋は正しくそんな感じです。
空間を支配する空気は、それこそ重く、何処か遠慮しがちになる。
大体15畳くらいの一個室において、これほどの気配を凝縮するかの如く詰め込むにはあまりにも役者不足すぎる、と私は肌で感じました。
それもそのはずでしょう。
「………」
南に位置する椅子に座り、本を必死に読んでいるパチュリー様。そのお顔はいつも通りに見えて、実際いつも通り。しかし長年のお付き合いか、私には強張るを通り越して見事に固まる仏頂面に見え、言い知れない緊張を物語るには充分過ぎる証拠と言わざるを得ません。
普段以上に口数の少ない方なのに、緊迫オーラを伴って沈黙を保ちつつ鎮座されては気まずくもなります。
「……あのぉ………」
自ずとおずおずとなってしまった物腰で、私はそんなお二人に声をかける。
11杯めのお茶と、11回めの台詞。無論喋っているのは私だけなので余計に目立ちます。
「紅茶…入りました……けど」
「いただくわ」
それでも図書館でお茶を出した時と同様の即答。0.2秒の返事を聞くまでも無く、私は手にしたカップを机に置く。
再度、沈黙。殺風景な壁に申し訳無さげに掛けられた時計が刻を刻む。耳障りにも感じ始めたカチ…カチ…というやたら響く音に誘われるかのように、私は時計を見やった。
「もうじき…ですね………」
「そうね」
指定された時間に、猶予はもう一時間も無い。ここで紅茶を出すのもこれが最後になるでしょう。
「…大丈夫ですか……?」
この台詞、今日は自分でも聞き飽きるほど口に出しました。いつも以上に寡黙でいつも以上にお顔が青くて、いつも以上に動きが無いパチュリー様。きっとこのまま人気の多い道を行けば三ヶ月分くらいはこの台詞を聞けるのではないでしょうか。
「何が?」
無論この台詞も何度目か見当もつきません。
「え…っと、顔色が優れませんよ、とか、準備は万端ですか、とか、本のページが先程から捲れてませんよ、とか…色々ですが……」
「………」
真っ青だったパチュリー様の表情が元の色にやや戻られる。
「平気よ…何度言わせる気かしら…?」
「…そのお言葉……魔理沙さんがおっしゃる『本の貸し出し期限は厳守するぜ』並に信頼におけませんね」
「……それは…信じられないわね…」
明らかに無理矢理作った笑顔と簡単なお答え。
しかしそれを誤魔化そうとしたかは定かではありませんが、魔理沙さん、というお言葉に軽く体を震わ せた事を、私は見逃しませんでした。
「(これは不味いですね…)」
魔理沙さんが相手だからでしょうか。何か不安があるのでしょうか。
「準備もいい、私は平気、本のページは……そういう気分なのよ…」
「ですが……」
「わかったなら少し話し掛けないでくれない?…集中したいの」
「………申し訳…ありません……」
そしてまた重苦しい空気が気にかかり始める。
何も変わらず、何も動かず。時たまに外からの音や服などが何かと擦れる音が耳に入る程度。
私にとって、魔理沙さんと出会う前の図書館に似た、懐かしいもどかしさ。
何も出来なかった、否、何も意味を成さなかった久遠の時。自分では終止符を打てなかった無機質な日々。
また、この方に何もできないのでしょうか。そのまま終わってしまうのでしょうか。
「…もうじき……ですね…」
「そうね」
何も変わらないまま、やはり時計の音に耳をやる。その度に自分がいつも通りに何か言い、パチュリー様は同じ答えを返す。
「…ねぇ……」
「え…?」
しかし意外にもそんな『いつも』が破られた。
「レミィは…負けたのよね……?」
「…?」
パチュリー様だ。本から目を離さずに私に話しかける。
時計の針が止まったかに感じる。あれだけ耳障りだったというのに。
「咲夜も…この戦いで負けた……」
「……はい」
ぽつりぽつりと呟き続けるパチュリー様。寂しげとも嬉々としてとも取れない、ただ黙々と。
「そして貴女も……」
「…………………はい」
「みんな…自分の全てを出して戦って…負けた」
「………」
パチュリー様の本を持つ手が微かに力が篭るのがわかる。
「…………」
「…………」
「…じゃあ……ね?」
「……?」
「私の全て……って…何かな……?」
本を読む目が、少しだけ見開いたまま強張る。
「本…?知識…?それとも…」
「…」
「貴女の全てって…何かしら…?」
「……私は…私の全ては……ご主人様…貴女の思い……」
「…なら…私の全て……って、貴女なら判るでしょ…?」
そして、無音。
「…」
「…」
その刹那の時の中で、パチュリー様の迷いと言い切ってもいい感情が、読めた。
具体的には一重に言えない、しかし心の中でしっかりと見取れた『何か』。
同時に、私の中でも『何か』が取れたような気がした。手に届かない位置に引っかかっていたものが取れたような…。
「…何でもいいです……」
「?」
何も出来なかったけど、今だって何か出来る。悩みを聞くだけでも出来る。
「本でも知識でも、何でもいいです……パチュリー様の大切な何かを…思い浮かべてみて下さい」
「……」
また無音。八方の壁から伝わる様々な音と一体となる。
私もイメージする。伊達にずっとパチュリー様のお側に仕えていた訳ではない。鮮明に浮かぶ、パチュリー様の大切な何か…。
本。知識。図書館の生活。そこで頻繁に起こる様々な存在との出来事。
お嬢様、咲夜さん、美鈴さん、妹様、……そして、魔理沙さん。
自覚も意思も無いけれど、パチュリー様にとって大きなものとなっている筈のそれら。
「きっと…そうやって残ったものが…そうなんじゃない…でしょうか…?」
「………それが…私の全てなら……なら、それで負けたら…」
「……」
「正直に言うわ……怖いの。自分の全てが、他人の全てに圧されて…劣るとされて…。私の全てが…魔理沙に否定されたら……」
それは明らかなプレッシャー。誰かと何かを競う事なんて、ましてや『自分』を曝け出すなんてした事も無いパチュリー様。判っていても拭えない感情。
当然といえばそうだ。今まで続くと思っていた日常を、口にすらしなかった事まで魔理沙さんに伝わるかも知れないのです。言うなれば告白。改めて気持ちが伝わるのです。
それが受け入れなかったら……。人々に、魔理沙さんに……。
「大丈夫ですよ」
私も、そそ懸念はあった。初めて自分を表に出した。心の中に溜め込んだ思いを洗いざらい出して。初めてだったその行為は自分の秘めた感情をも目に留まり、戸惑った。そして怖かった。
「もしそうなってしまっても、誰かの心に残るものですよ。パチュリー様の全ても…きっと」
「……」
そして日々隠していたそれらを出しても、私は勝てなかった。なけなしで、全力で、これ以上にない思いを使っても、私の全てはそこで果てた。
「思いは優劣だけでは計れません。ですから、頑張って下さい。全てを出しきって、ぶつけてみて下さい…」
でも、それはそれ。私の思いはちっぽけでも、きっと誰かに届いたはず。それでいい。
「…私は、パチュリー様を応援しています。いつでも…いつまでも……」
例え、思いを届けたい相手に届かなくとも。
抱え込むよりは、形になって結果になった方がいい。
「………」
カチ……カチ……と、またあの音が聞こえます。今度のそれは体全身を包むように響き、心地よく感じる。
「もうじき…ですね……」
「……そうね」
10分もすれば指定の時間です。
「じゃあ………いってくるわ」
立ち上って、読んでいた本を小脇に出入り口に向うパチュリー様。
「ご武運を」
「…別に殺し合いに行くわけじゃないのよ?」
「魔理沙さんならいきなり弾幕ごっこなんてことも…」
「…確かに……。まぁ肝に銘じるわ」
ドアに手を掛けたまま振り向いて私にそう言ったパチュリー様。そのお顔に浮かぶ僅かな笑みは、最早曇りのない、最近になっていつも通りとなった無垢で綺麗なものでした。
「いってらっしゃいませ」
「……………ありがとう」
そして時は来る。
ゆっくりと、しかししっかりとしたパチュリー様の足取りに、強い意志を感じつつ。
心の底から成功を祈るこの瞬間に、言い知れない幸せを噛み締めて。
最萌会場、出場者入場門前。
「おう、パチュリー」
「遅い登場ね…」
「それがメキシコ風だぜ」
「……なにそれ」
「知らない方がいい事もあるぜ」
「……ふふふ…やっぱり貴女、いつも通りね」
「誉め言葉として受けとっとくぜ」
「一応誉めてるんだけど」
「そういうお前もいつも通りに見えるが」
「…気のせいよ」
「…どの辺がだ?」
「……………」
「?」
「……そうね…今着てる服…これでも勝負服よ」
「…お出かけ用ネグリジェとはまた通だな」
「たまには……ね」
「……やっぱりお前もいつも通りじゃんか」
「そう見えるだけってことよ」
「そうか」
「………」
「………」
「ねぇ…魔理沙……」
「ん?」
「手加減…抜きよ?」
「する気ないしさせないぜ」
「そう…良かった」
「………やっぱりいつも通りじゃないのか?」
「魔理沙…私、私なりに頑張るから……全力でやるから」
「…」
「いい勝負にしようね…」
「…やっぱいつものパチュじゃない…どうした?熱か?喘息か?この手は何に見える?」
「スタン○ンセンのウィー。…えーと…目の前の黒いカサカサしそうな生き物を粉末にする方法は…」
「まぁ落ち着けまぁ落ち着け!!判った真面目にやる!!」
「よろしい」
「…大方あの名無し悪魔になんか唆されたな…?」
「60点。200点満点で」
「まぁ…今日は一日……宜しくな」
「うん」
眩いライトに照らされた道を、二人で歩く。
己が全てをもって、全てを賭けて戦う。
思えば、魔理沙と真っ向から戦うのも久しぶり。
そして敵や侵入者としてではなく、『魔理沙』として向き合うのは、きっと初めて。
だからとは言わないけど、私の思い全てをちゃんと使うことにする。
そうしないと、自分の使い魔に笑われちゃうしね。
懐のスペルカードを探る。7枚確かなる事を確認して、手を元に戻す。
結局弾幕ごっこになりそうだけど、これしかないと思うと逆に安心してしまう。
本と知識とともにあるのが、私。
ならば私の思い…これらに託し放つまで。
3回戦第3試合…開始。
あとがき(当時
なし。
あとがき(今
…もうね、実はあまり振り返りたくないSSorz。一言で言うなれば黒歴史。二言で言うなれば蝶黒歴史。
最萌の魔理沙対パチュ、パチュ支援。まぁ、よい経験になったさ。ああ。表現とかは足りてない脳みその割には絞れたけど、何より内容が…
…
……
………
頑張る…うん。頑張る。
会話とかで色々雰囲気とか察してください。互いに、結構大切に思ってる。小悪魔はパチュのことを良く見ている。でも故にパチュにとって魔理沙のような存在になれないのでしょうが。
…それがメキシコ風…元ネタ知ってる人居るかなぁ…
いや戻るよ。